THE MIST

ミスト [DVD]
うーん。
「見えない」=「分からない」=「理解できない」という恐怖を良く表現している秀作だとは思います。
けど、救いがない映画だ。
取り敢えず衝撃が強すぎて思考停止してしまった。
なんか、ネタバレせずに書き進むのは無理そうなので、早めに区切りいれときます。


(以下ネタバレかも)
正直言って、原作は当たってません。
相も変わらず、事前情報も全く入手せず、知識無く見ました。
原作があることも見た後知りました。
また、旧約聖書が出てくることから、何らかの旧約聖書に関する知識が無いと理解できないところもあるんでしょうが、私は旧約聖書の知識もありませんので、色々ご容赦を。


それにしても、異次元の生物はバラエティーに富んでますね。
おまけに霧の効果を上手く使っていて、よく見えなくしてるのも上手いです。
ちゃんと正体が見えてて想像が付くのは、蠅と蜘蛛と翼竜くらいですかね?
だからこそ、色んな突っ込みどころを少なくしているんだと思います。
正直言って、個体数は少ないんだろうだと思いますが、最後の、歩くだけで地響きのおきる巨大なのが来た日には、あんなショッピングセンターのガラスなんてなんの役にも立たないだろうし、もっと言うなら、最初の触手だって、表から回ってくればガラスくらい破れるくらいのパワーの持ち主だったですよね。
ま、見えないんで、触手の正体はでかい蛸みたいので、きっとスーパーの裏には水辺みたいのがあって、そこからしか来れないというかもしれんので、そういう突っ込みはできないのです。
そういう意味で、正体を全て知らせないのは上手いなと。


とはいえ、異次元の生物に関しては明らかな枝葉ですね。
この話で怖いのは実は「見えない」霧の中に居る何かよりも、見えるところにいる、一間仲間に思える人々の「見えない」心の中なんですよね。
極限状態で人が墜ちていく様が本当に怖い。
また、一見その様を冷静に眺めている様でいて、同様の狂気に囚われている事を自覚できていない主人公側の心の動きも怖い。


その様々な恐怖を表現する上で、色々なものを否定しているのがこの映画なのかも。
例えば、努力とか。
普通、映画では美点として表現されるべき人が生き抜く努力が、その努力する人々の呆気ない死によって無意味なものとして表現しているように見える。
例えば、勇気とか。
まぁ、蛮勇との境目はどこにあるんだという命題もあるけれども。
当然、決断とか。
ま、ラストに象徴されるように、人間の決断というのはなんと愚かなものなのかと言うように。


当然、その決断の愚かさというのは、直接的には「自殺」とか「尊厳死」の否定という直接的なテーマがあるのかな。


劇中で、全身火傷の人を救うために薬局に行くわけですけど。
その前に、辛いからひと思いに殺してくれと、全身火傷の人が主人公に請う。
結局、それには応えずに、色々努力をするが間に合わない。
逆に、ラストシーン前に主人公の息子が「自分を怪物に殺させないでくれ*1」と請う。
それは、単に怪物から守ってくれというニュアンスの言葉だったのかもしれないのに、「怪物に殺されるくらいならお父さんが殺してくれ」と曲解して主人公は手を下してしまう。
妙な符号と、対比かなと。


人は自らの大切な者にしか「尊厳死」の問題を向き合えないし、逆にそれはエゴイスティックですらある。
ということなのかな。
けっこ深いです。
ストーリーについては、絶対に賛否両論あると思いますけど、頭を空っぽにできる娯楽映画ではなくて、斯様に考えされされる作品であることは事実ですね。


最後の最後に行くまでは、『「じいちゃん」「ばあちゃん」強すぎ(w』くらいの感想しか無かったんですが。



追記


元の台詞を当たりましたが、本当に単に、「僕を怪物に殺させないで」と言っているだけですね。
前後で、「とても大切なお願い」で「約束して」とかが出てきてますんで、かなり微妙なニュアンスです。
でも、「一人にしないで」というキーワードもあるんで、どっちともとれる発言であることにはかわりはないですね。


なんか、どちらの意図での言葉だったのかは、制作側の悪意がどこにあるのかを決定づける重要なポイントなのですが、判然とはしてないみたいです。

*1:元の台詞を当たる予定