症例A 多島斗志之著
乖離性同一性障碍は昨今のはやりと言っても良く、多くの著書である程度語り尽くされた感もある。本作でも精神科医が主人公となっているという点に於いては、この題材の著作の他の例に漏れない。しかし、至極真面目に病として捉えこれと向き合う姿勢、ソースのしっかりした情報の集積により、興味本位や面白可笑しい題材として好奇心を満たすだけの軽薄なモノとは一線を画した重厚な作品に仕上がっている。人物も魅力的に描かれている良質なサスペンスだ。
敢えて苦言を呈すとするなら、当初から対比的に描かれている博物館員のキャラが薄い点、謎解きの部分を性急に運びすぎた感が否めない点、題名を敢えて「症例A」にしているのに裏表紙に乖離性同一性障碍のネタばらしをしてしまっている点か。
乖離性同一性障碍と同様に、精神医学のエッセンスとして登場する「精神分裂病」*1「境界例」*2などといった症状の羅列を軸に主人公が診断を下していく…症例Aを明らかにしていく課程こそが本作の中心の半分であった筈なのだが、流行モノとして乖離性同一性障碍に触れておいた方が購入者が増えるという出版社サイドの思惑だろうか…