柔らかな頬 桐野夏生 著

柔らかな頬 上 (文春文庫) 柔らかな頬 下 (文春文庫)


名著。
一連の事件を通じて、登場人物の心象風景の描写が素晴らしく、いちいち心を打つ。
比喩表現が素晴らしいし、美文や名言が多く、メモしたくなる。
また、挿話による視点の変更が物語全体の厚みを増すのに大いに役立っている。


終わらせ方に関しては個人的には少し微妙かも。
もっと曖昧に、余韻を残す感じのが好みかもしれない。
ま、議論の分かれるところだろう。


ただ、主人公がかなりエキセントリックなんで、そこについていけなさを感じるのは性差かな?
ま、しゃーない。


(以下個人的メモ)

夢があるからこそ、現実は確かで揺るぎないものだった。

病が人間に孤独を強いるのは、肉体の痛みや苦しみを誰とも共有できないからだ。肉体はあまりにも個人的で、それを伝えようとする言葉は無力だった。

音楽は時間が経つのを忘れさせるが、時を刻むものでもある。

「だけど、恋愛じゃないな。あなたとは恋愛したけど、真菜は違う。二十歳も違う女と恋愛なんかできないよ。あの子から奪うものなんかありゃしない。また、あの子が奪うものなんかも俺には全くないよ。なくしたんじゃなくて、用意する必要がないんだ。」
「私の時にはあった?」
「あったさ。あなたの時間を奪ったし、あなたの愛情のほとんどを家族から奪ったし、あなたの体をあなたから奪った。最後は自由さえ欲しがった。」