凍える牙 乃南アサ 著

凍える牙 (新潮文庫)
名著。
臨場感やスピード感がすばらしい。


また、男と女の視点から交互に描く手法では、それぞれの心情の対比が面白く、それぞれのスタンスや心の動きなどが具に見て取れた。
筆力だなぁ。


ただ、視点変更の手法を使う作品にはままあることだけれど、いくつかの箇所で視点変換に錯誤を来す場面もあった。
特に、主語の使い方に気になる場面があった。(一人称→三人称)
しかし、それは些事だし、この物語の面白さを損なうほどのものではない。


視点といえば、この手の物語ではありがちだが、時に犯人の視点が挿入される。
今回の話では、逮捕というか、主人公らの前に姿を見せる直前に挿入されるようになっており、これによってその後の展開*1を容易に予測させてしまっていた。
この手の刑事小説では、犯人逮捕が最終目的となっていることが多いから、この構成については賛否の分かれるところだとは思う。
けれど、この小説の主題は犯人を逮捕することにはなく、その過程での、異なった性によるスタンスの違いからの『思惑の鬩ぎ合い』にあるのだろうから、個人的にはこのスタイルでいいのだと感じた。
つまり、前者の主題で描くのであれば、当初から犯人視点を挿入するべきだが、それをしなかったのにはそれをしないだけの意味があるわけだ。



本文には全然関係ないのだけれど、この本を読んでいたら、こんなことを考えている女性ってのは、きっと●○なんだろうなぁ〜。
と思っていたら、ほんとに●○だった。
●○の人にありがちな心の動きの典型だよな。
いあ、それを否定したり中傷したりするつもりは毛頭無いのです。
まぁ、だからこそ描けるある意味典型的な女性像なのでしょうから。

*1:この場合は逮捕とか