魔笛 (講談社文庫) 野沢尚 著

魔笛 (講談社文庫)
良いです。
エンタテインメント性に優れた、サスペンスタッチの、クライムノベルという感じ?


序盤からぐいぐい引き込まれます。
かなりな読みやすさ。
死刑囚の手記という形式を取ってます。
これに関しては、部分的に齟齬がある気もするけれど、独白部分の処理で概ねカバーしてて、技巧的な感じ。
けど、筆者の「影」を消すテクニックとしてアリかもしれないと思う反面、その形式は折角のサスペンスの結末のネタバレを最初にしている事になるわけで、議論のあるところかもしれない。
逆に落ち着いて読めるし、序盤で作中の「筆者」がどちらの側に属しているのかを、巧妙にマスクして、読者を惑わせるところなどは、この手法があったからこそ出来たところだと思うので、善し悪しではないのだと思う。
個人的には嫌いではないという感じ。


ノーマン・マクリーン

「日の出の時間というのは、助けてやらなくてはならない身近な人間をどうすれば助けることができるのか、その方法を思いつくことができるように思われる時間だ」

何となくメモ。


(以下ネタバレするかも)
p107のヒンドゥー教のラディカリストってのは、オショウのことですね。


この逸話に関しては、件の人物や宗教団体がオウムとの類似や関係を取りざたされていることからも、この話の宗教団体がオウムを意識していることがわかります。
ま、そんな逸話なんか無くても、オウムネタだってのは分かりまくりますけどね(^^;
国内の小説でオウム事件後に、オウムを取り扱ったり、オウムにインスパイアされたりした作品っていくつあるんだろう?って感じですものね。


とはいえ、この作品ではオウムは下敷きの一つに過ぎなくて、その影響はどんどん薄くなって行ってます。
この辺の心象風景の掘り下げ方が心地よいのかも。


ただ、苦言を呈するとすると、主人公が孤闘を強いられていく理由付けが、まだまだ薄い感じ。
というか、わざとかもしれないですが、原宿署の同僚の描写が欠落してて微妙に奇異。
まぁ、取り敢えず、孤闘にならないとラストシーンはあり得ないのですが、もう少し肉付けが欲しかったかな。
ま、それも過ぎるとスピード感を失して冗長になるだけかもしれないので、好みの問題なんでしょうけどね。